「先生、お怪我はありませんか?」 剣心はおろおろと蒼紫の前に膝をつく。 左之助が噛み付いた腕をそっと取って怪我の具合を確かめる。途端に左之助から抗議の声が上がったが無視する。 腕はジャケットの生地がしっかりしていために擦り傷や青痣が歯型についただけだった。左之助の顎の力から考えると幸いといえるだろう。 ただアルマーニのジャケットは左之助の犬歯が刺さった為に大穴があいてしまっている。シャツも、破れたりボタンが取れていたりしてぼろぼろだ。 剣心は大怪我には至らなかった事に安堵しながらもすまなさでいっぱいになる。 「本当に、申し訳ないでござる・・」 剣心がしょんぼりと肩を落す。 その姿を見て蒼紫は安心させるように腕を動かして見せる。 「大丈夫ですよ、大した事ありませんし、緋村さんのせいではありませんから。しかし・・、この乱暴な男とお知り合いなのですか?どうやら向こうは緋村さんをご存知のようだが。」 蒼紫はわざと敬語を使いながら左之助を顎で指した。立ち上がって服の汚れを払う。 「おい君。この場合、すぐに警察を呼ぶべきなんだろうが、緋村さんに迷惑をかけたくはないから見逃してやる。どういうつもりか知らないが、よかったらいい精神科の医者を紹介するよ。狂犬病の検査も受けた方がいいな。」 途端に左之助がまた蒼紫に飛びかかろうとするのを、剣心の冷たい声が留めた。 「左之助。」 左之助は何か言おうとしたが、剣心の無言の圧力によって制された。 「本当に申し訳なかったでござる。この男は、ここの店員なんでござるよ。用心棒も兼ねて雇ったので、多分何か勘違いしてしたことでござろう。左之助、四乃森先生に謝りなさい。」 「だってよ剣心、コイツは・・!」 左之助にしてみれば蒼紫は大事な剣心に触ったというだけで万死に値する。悪いのは向こうなのだ。自分は剣心を守ったのだから、褒められはしても謝らなければならない事などない。大体さっきから剣心が蒼紫の側にいる事自体かなり気に入らないのだ。 当然左之助は嫌がり、抵抗した。 しかし剣心に睨まれて口を噤む。 「謝りなさい。」 左之助はだだっこのようにぷいっとそっぽを向いた。 「・・左之助。」 そおっと剣心の方を見ると、剣心は口をへの字にまげて左之助を睨んでいる。左之助は折れた。 「・・・・・。」 そっぽを向きながら口の中で何やら呟く。それはとても謝罪の言葉には聞こえなかったが、剣心が溜息をついてうなずいた。 「四乃森先生、拙者からも、あやまります。済みませんでした。お洋服も、弁償させていただきますから。」 蒼紫はそれを聞いて幼子をなだめるように頭に手をやった。 「もういいんですよ、緋村さん。私は、今日緋村さんにお会いできて、元気に働いてらっしゃることがわかっただけでここに来てよかったんですから。それに、弁償だなんておっしゃらないでください。私だって、鉢を倒して散らかしてしまった。」 「でも、そのままでは外を歩けないでござるよ。とりあえず、シャツだけでも拙者に繕わせてはいただけませんか?その間の代わりの洋服もお貸ししますし、お茶でも飲んで待っていてください。」 |
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