そして24日、クリスマスイブ。 先月くらいからなぜかバイトを増やして外出が多い左之助とはあまり話す時間が取れず、今夜の予定もはっきり決まらないままだ。 例年同様、今年も目が回るほど忙しいクリスマスイブとなったが、ケーキの受注はごく少数にしていたし通常のケーキもあっという間に売切れてしまって午後3時には既にショーケースの中は空になっていた。 早々にクローズドの看板を出した剣心が左之助を振り返る。 「おつかれさま。でも思ったよりはやく終わってよかったな。どうする?買い物でも行こうか?」 「ごめん、俺用事あるんだ。ちょっと出かけてくる」 「そっか。でも晩ごはんには帰ってくるだろう?」 「うん。7時までには帰るよ」 「そしたら、用意して待ってるから」 「ごめん、一緒に飯作れなくて」 「ううん。寒いから気をつけて」 左之助を見送った後、ため息をひとつついて二人分のディナーを準備していると、剣心の携帯電話がコールした。 縁だ。 『おつかれ。店はもういいのか?』 「うん。もう今日は終わったんんだ」 『じゃあ、今からこられるか?』 「うん・・・」 『それじゃあ、日本橋のマンダリンオリエンタルに。そうそう、ブッシュ・ド・ノエルを忘れずにな』 話にだけは聞いたことのある、オープンしたばかりのガラス張りの高層ビルの前に立つ。 中は吹き抜けで天井にはステンドグラスが張られ、クリスタルガラスのツリーがキラキラと輝いている。 専用エレベーターに向かうと、ボーイが笑顔でドアを開けてくれた。一気に36階まで昇る。 縁から教えられていた部屋をノックすると、すぐにドアが開き笑顔の縁が出迎えた。 「待ってたよ。どうぞ」 「はい、相楽君。今年もおつかれさま」 「わ、社長ありがとう。助かるわー」 「ホント、これからもっと頑張ってよー。相楽君結構人気あるんだから」 ガリアーノのスーツを着た中年の美女が差し出した封筒を受け取る。 「ホントはギャラは翌月末払いなのよ。もっとちゃんと社長にお礼言いなさい」 眼鏡をかけた経理担当の女性が、左之助をたしなめる。 「わかってるって。払い出してくれてありがとなー、サトちゃん」 左之助はそう言って眼鏡の女性をハグした。彼女は顔を真っ赤にして固まってしまう。 「ほらほら相楽君。先月から仕事増やして頑張ってたのは今日のためなんでしょ。油売ってないてさっさと行きなさい」 「うん。マジありがとな、社長。サトちゃん、またねー」」 白い歯を見せ、手を振りながら去っていく左之助を見送る。 「もうっ・・・。ホント調子のいい子なんだから」 「でも憎めないのよね。」 眼鏡の女性を覗き込む。彼女はしぶしぶうなずいた。 「しかもあの子、今年の春くらいからちょっと変わったわよね。なんだか・・・」 「まるくなりましたよね。投げやりなところがなくなったっていうか・・・」 「きっとこれから会う相手のおかげね。ま、仕事頑張ってくれるのはありがたいわ。せいぜいやる気出してもらいましょ」 「剣心ただいま〜!」 7時少し前。ワインボトルと、銀座で完全オーダーの花屋を営む友人に頼んで作ってもらった花束を抱えて帰った左之助は元気に帰宅を告げる。 しかし左之助の帰りを待つはずの相手から返事はない。 「剣心・・・?」 テーブルの上にはディナーの準備ができており、冷蔵庫を開けると中にはほとんど出来上がった料理があった。 どうしたのだろう。ちょっとスーパーにでも行ったのだろうか。それならば迎えに行こうと左之助は携帯に電話をかける。しかし小さな機械から聞こえてきたのは、思いがけない声だった。 『よう、小僧。何か用か』 一瞬にして頭が沸騰する。怒りのあまり目の前がくらんだ。 「なんで剣心のケータイにてめぇが出やがる!剣心はどうした!!」 『剣心?ああ、剣心ね。』 クスクスと笑う声が耳ざわりに響く。 『あいつはもう帰らないよ。おまえにももう、会わないってさ』 「なんだとっ・・・!」 『ゲームは終わりだ。残念だったな、小僧。Joyeux Noel!いい夜を』 そして縁は電話を切り、そのまま携帯を水の入ったバカラのデキャンタに放り込んだ。 水の跳ねる音、そして沈んだ携帯がグラスに当たる音が響く。 「Adieu」 時は2時間ほど前にさかのぼる。 36階にあるオリエンタルスイートに招き入れられた剣心は、その夜景の素晴らしさに息を飲んだ。まるでベルベットのジュエリーケースに色とりどりの宝石をちりばめたようだ。 「ほら、こっちにおいで」 リビングには、ディナーの準備がされていた。 「どうぞ、座って」 「でも縁・・・、俺すぐ帰らないと」 「食事くらいいいだろ。それとも、誰かと予定でも?」 「いや、別に・・・」 「じゃあいいだろ。1時間ほど付き合ってくれればいいから」 「じゃあ・・・少しだけ」 縁はにっこりと笑って椅子をひいた。 シャンパン「ジャック・ボーフォール」の栓を抜く。ポン、と気持ちのいい音が響いた。黄金色の液体をグラスに注ぐ。 「Joyeux Noel」 繊細なグラスが触れあい、美しい音を奏でる。 「久しぶりだな、こうやってゆっくりするのは。」 「うん・・・」 「なんだか昔を思い出さないか?俺とおまえと、姉さんが一緒にいた頃のこと」 「・・・・・・」 「おまえが今も姉さんの事で苦しんでるのは知ってる。これからもずっと苦しむことも」 グラスを持つ手が小さく震えて、中のシャンパンが揺れるのをじっと見つめる。 「でも俺は気にしない。ずっとおまえの側にいる」 「縁・・・?」 「俺がおまえを守ってやる。一生」 「えに・・・」 剣心の手からグラスが離れた。 「初めて見た時からずっと好きだったよ、剣心」 椅子から崩れ落ちる剣心を縁が抱きとめた瞬間、グラスが床に落ちて砕ける音が響いた。 「すこしおやすみ、剣心。」 話し声が遠くに聞こえて、剣心は目を覚ました。奇妙な浮遊感と霞がかかったような意識。目の前の光景は暑い夏の日のように歪む。 「ここ・・・は・・・?」 ゆっくりと記憶が戻る。そうだ、縁が・・・ 話し声は縁のようだ。誰かと電話をしているらしい。足音が近づき、縁の姿がベッドルームに現れた。 「Adieu」 永遠の別れを告げる挨拶とともに、見慣れた自分の携帯電話が水の湛えられたデキャンタに放り込まれた。 「えに・・し・・・」 「起きたか剣心。ああ、携帯?もう必要ないだろう。フランスでは使えないよ、こんなもの」 そして剣心の横たわる広いベッドに腰かけた。 「縁・・・どうして・・・」 力が入らない。心臓が異常に速く打ち、身体が熱い。 「さっき言っただろ。初めて会った時から、おまえを必ず手に入れるって決めたんだ」 「ずっと・・・?初めから・・・?」 「そう。初めから。」 剣心は心臓を鷲掴みにされたようにぎゅっと目を閉じる。 「縁・・・」 「もう何も考えなくていいんだよ。何も怖くない。俺がいれば、安心だろう?」 縁は優しく剣心の滑らかな頬を撫でた。そのまま大きな瞳へ形のいい唇を落とす。 縁の唇の下で、剣心の瞼と睫毛が繊細に震えた。 「剣心・・・」 弱々しい抵抗は、易々と封じられた。 そして縁は桜桃のような唇へ、自らの唇を重ねる。 焦がれ続けた柔らかい唇の感触を、何度も角度を変えて楽しむ。歯を食いしばり、顔を振る剣心を無理に押さえつけたりはせず、優しいキスを繰り返すことで慣らせていく。 やがてぐったりとした剣心に縁は勝利の笑みをもらす。ただ触れるだけの優しいキスから、段々と激しさを増した。唇を吸い、固く閉じられた歯茎を舐め、剣心が自分の意思で口を開くようノックを繰り返す。下唇をそっと甘噛みされ、剣心の背筋に甘い戦慄が駆け抜けた。 左之助のキスは強引で少し自分勝手で、でもとても優しかった。それは剣心の胸に愛しさを溢れさせた。縁のキスとはまるで違う。縁は何もかも知りぬいたようなやり方で官能を引きずり出し、剣心を降伏させようとする。それに身を任せることはとても楽で、しかも恐ろしいほどの快感を伴った。 頭がぼんやりして、何も考えられない。このままこの快感に身を委ねてしまえばいい、という声に流される。とうとう剣心は耐え切れず噛み締めていた顎の力を抜いた。 とたんに縁の舌が入り込み、剣心の舌と絡んだ。巧みなディープキスに、後頭部を殴られるようなしびれを感じる。 「ん・・・、ん・・っ」 広い部屋に唇を合わせる濡れた音が響く。その間にも縁の長い指は剣心の体中に触れ、服を乱していく。シャツの襟に手をかけると、一気に引き破る。音を立てて貝ボタンが飛び、白い胸が露になった。 筋肉が薄く張った綺麗な身体に触れ、その絹のような手触りを堪能した。剣心は縁の冷たい指先に撫でられる度にぴくぴくと身体を震わせる。 「・・・やめ、やめて・・・えに・・・」 「ほんとうに?本当に止めて欲しいのか?」 縁はしみひとつない白い肌の中で一点だけ鮮やかな色彩を湛える場所をそっと撫でた。 「・・・んっ」 とたんに剣心の身体が跳ね上がる。縁は面白がってからかうように何度も撫でさすった。 「ここがそんなにいいのか?どんどん色が濃くなって・・・立ってきてる」 「や、やあっ・・・」 縁は普段なら想像もつかないような顔で舌なめずりすると、固く立ち上がったそこへ顔を落とした。唇ですっぽりと覆い、尖らせた舌先でちろちろと嘗め回す。 「くうっ・・・!」 もう片方の蕾も手でつまみ、ぷりぷりとこね回した。剣心は身体を弓のように逸らし、足先まで震わせた。 「いやらしいな、剣心。」 縁は笑いながらベルトを外し、パンツの前をはだけてショーツをあらわにする。既に前は大きくふくらみショーツを押し上げていた。 「やめ・・・」 剣心はショーツの上に手をかけ、既に濡れていることを確かめる縁をまともに見られず顔を逸らした。 縁の手はショーツの上からそっと撫でる。その度に剣心自身は大きく脈打った。そのままショーツの中へ手を入れ、窮屈そうにしていたものを引き出し、空気に触れさせる。 「見ろよ剣心。もうこんなになってる」 鮮やかな色に染まった剣心自身に直に触れたとたん、剣心の喉はきれいな弧をえがき小さく囀った。 「かわいいな、もっと鳴いてくれよ。」 両手で顔を覆っていやいやをする剣心に嗜虐心を煽られ、縁の欲望が更につのる。 「困ったな、どうすればもっと鳴いてくれるんだ?こうか?」 先端の敏感な部分を指の腹で擦りあげ、ふたつの果実をもみくちゃにした。 「ふっ・・・うぅっ・・」 縁の手の中で震え強ばりを増すそれをいたぶり倒す。達しそうになると痛みを与え、またすぐに快感を与えるのを繰り返した。 「えに・・・えにし・・・もうだめっ・・・」 「へえ?何が駄目なんだ?」 笑いながら弱い裏の筋を擦る。 「くうぅっ・・・!」 「何が駄目なんだ?俺にどうして欲しい?」 「えに・・・えに・・・しっ・・・」 ぼろぼろと顔中を涙で濡らし懇願する剣心の姿に、かつてないほどの興奮を覚える。このまま押さえつけてめちゃくちゃに犯したいという欲望を歯を食いしばってこらえた。お楽しみは、じっくり味わうためにあるのだ。 「い・・・いかせて・・・お願い・・・」 消え入りそうな声でとうとう縁に降伏した剣心に、縁はにやりと唇を上げた。 「じゃあ、足を開いて俺にして欲しいことをやってみせろ」 剣心は信じられないという目で縁を見る。その子供のような表情にゾクゾクと鳥肌が立った。 「ほら。やってごらん、剣心」 優しく言い聞かせる縁に、剣心はいやいやと首を振った。 「だめだよ、剣心。ちゃんと言うことを聞いて。つらいだろう?楽にしてやれるのは俺だけだろう?」 とうとう剣心は泣きながらゆるゆるとその美しい曲線を描く脚を開き、震える手で自分自身に触れた。とたんにびくんと身体が跳ね上がる。 「もっと脚を開いて。よく見えるように」 もはや縁の意のままに、剣心は脚を大きく開いた。奥までが縁の眼前に露になる。 「ほら、どうして欲しい?」 「こ・・・ここに・・・触って・・・」 「へえ。どんな風に?」 「えにっ・・・!」 「やって見せてくれないとわからないよ」 剣心はつま先まで震わせながら、ゆっくりと自身を擦り始めた。そのあまりに淫靡な光景に縁は見ているだけで達しそうになる。 「淫乱だな、剣心は。いつも自分でそんな風にしてるのか?」 「あっ・・・み、見ないでっ・・・!」 「自分で見せておいて。本当にいやらしい子だ」 ぶるぶると体中が震え始め、達そうとしていることを感じ取った縁は自慰に耽る罪深い右手を引き剥がした。 「あっ・・・」 「自分でいっていいとは言ってないだろう。我慢しろ」 縁は剣心の脚を広げ、丸い双丘を開いてその奥にあるつぼみに指先を触れさせた。初めて他人に触れられる感触に、剣心は身震いする。縁はそこをやさしく撫でさすりながら、剣心自身を握りこんだ。 「あぁっ・・・!」 求めていた快感に甘い声を上げて縁にしがみつく。無意識に腰を揺らすしぐさに笑みを漏らした。自身への愛撫に合わせて自然に与えられる刺激に、剣心はいつしか慣れていく。いつのまにか縁の指先は剣心のつぼみの中に入り込み、ゆっくりと浅く抜き差ししていた。前と後ろを同時に刺激される初めての快感に、剣心は声も出せないほど身悶えた。 「えに・・・、えにしっ・・・もうっ・・・」 「いいよ。ほら、いってごらん。見ててあげるから」 絶頂の瞬間の表情を見られまいと必死で顔をそらすのも空しく、しっかりと縁に顔を見られたまま、きつい刺激を与えられて剣心は高い嬌声を上げながら達した。 激しく息をつき、身体を縮こまらせる剣心に縁は剣心の出したもので濡れる手を拭いながらみせつける。 「いっぱい出したな、剣心。気持ちよかったか?」 縁は満足感が身体の隅々までいきわたるのを感じた。身体を重ねてしまえば剣心はもう後戻りできない。縁の作る極上の鳥篭の中で、剣心は一生飼われるのだ。 縁はそれまできっちり着込んでいた服を脱ぎ始めた。 「これからもっと気持ちよくしてやるよ、剣心」 電話を一方的に切られた左之助は、あまりに急な展開に一瞬呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返ると怒りで叫びだしそうになるのを必死で堪えて頭をフル回転させ始めた。 剣心は俺が出掛けてしばらくはうちにいて、晩飯の準備をしていたんだ。そこをあのクソ野郎から呼び出されたに違いない。 剣心が今いるのは、どこだ。 学校の成績はあまりよくない左之助だが、頭が悪いわけではない。左之助はかつてないほど脳細胞を働かせた。 剣心はどこへ行った? 7時には俺が帰るとわかってる。だからそんなに遠くへは行かないはずだ。 わらをも掴む気持ちで、左之助は握り締めていた携帯の履歴を押した。 『おう、左之助か。どうした。イブの夜に振られでもしたか』 「冗談言ってる場合じゃねえ!!」 左之助はのんびりした声の克洋を怒鳴りつけた。 『な、なんだよ一体・・・。もしかしてホントに振られたのか』 「そんなんじゃねぇ!剣心が拉致られた!多分どっかに監禁されてる!!」 『・・・マ、マジかよ』 「前に話した、縁ってフザけたハーフ野郎だ!はやく見つけないと取り返しがつかねぇ!」 『どこに行ったのかわからないのか』 「全然わかんねえ。3時過ぎに別れて・・・。多分5時前位までは家にいたはずなんだ」 『その縁ってのが乗ってるのはマセラティのグランスポーツスパイダーで間違いないんだな』 「ああ」 『そんな車、東京でもそうざらにはないだろう。走ってれば目立つ。周到な奴なら、自宅には連れ込まないだろうな。多分都内のホテルだ。わかった、俺もできるだけそいつの行方を捜してやるから、左之助、おまえも何か手がかりを見つけろ。わかったな』 「わかった」 電話を切った後も、左之助は家中をぐるぐる歩き回って剣心との会話に何かヒントがないか必死で思い出すが、全く思い当たらない。そうしている間にも刻々と時間は過ぎていく。 「くそっ・・・!!」 縁の腕の中にいる剣心を想像しただけで、怒りのあまり意識が遠のく。そしてその想像は多分、今実際に起こっていることなのだ。 左之助はぎりぎりと拳を握り締めた。あまりに強く握った為に、皮が破れて血が流れた。 剣心にとってはあいつと一緒にいる方が楽でも、俺といれば傷つくばかりでも、剣心だけはどうしても譲れない。 あの男は剣心の何もかもを知っているという。知っているから守れるという。でもあの男がしているのは剣心を救うことじゃない。過去の傷を武器にして、あいつを閉じ込めておこうとしているだけだ。 剣心の過去に何があっても、剣心を守るのはこの俺だ。 あの熱を出した日、左之助がいてくれてよかったと笑った剣心の顔が左之助を強く後押しした。 落ち着け。落ち着いて、順を追って考えるんだ。 剣心は、キッチンで晩飯の準備をしている。そういう時、剣心はカウンターに携帯を置く。 左之助はキッチンからカウンターに移動する。 そこで電話を受ける。呼び出しを受けて、場所を聞いたはずだ。ホテルなら部屋番号を聞く。間違えてはいけないから、メモを取るはずだ。 テーブルの上にメモはない。メモ用紙があるのは・・・、左之助はあたりを見回す。 冷蔵庫だ!冷蔵庫にはマグネットのついたメモ用紙がつけてあった。 左之助は冷蔵庫に走り寄った。 しかしメモには何の文字も書かれていない。 きっと、剣心が破って持っていったのだ。 でも、ここに書いたはずだ。もしかして・・・ 左之助はメモを冷蔵庫から剥がすと、自分の部屋に飛び込む。机から鉛筆を出すと、斜めにしてメモの上を薄く塗りつぶした。 「ビンゴ!!」 そこには剣心の書いた字が浮かび上がっていた。上の紙に書いた文字が、筆圧で下に写っていたのだ。 <日本橋 36※※> 「日本橋・・くっそ剣心、ホテルの名前も書いとけよ!」 日本橋にホテルなど、それこそ腐るほどあるだろう。左之助は頭を抱える。 「落ち着け・・・。あの野郎が取るホテルだ、ぜってーバカ高いとこに決まってる。日本橋で・・・高いとこ・・・もしかして・・・」 左之助の頭に、先日雑誌で見たホテルの名前が浮かんだ。最近オープンしたばかりの、超高級ホテル。 「ぜってーあそこだ!」 左之助はまた携帯を出し、リダイヤルを押した。 「わかったぜカツ!」 「こっちも情報あったぞ!おまえの舎弟総動員したお陰だ。今日の夕方4時過ぎに、白いマセラティグランスポーツスパイダーを日本橋三越前で見た奴がいたらしい!」 「やっぱそうか!三越前なら間違いねぇ、マンダリンだ!」 『部屋はわかってるのか?そういうとこは、部屋番号なんて絶対教えてくれないぞ』 「さすが剣心だぜ、番号は書いてた!今から行く!」 『気をつけろ、ホテルの奴に見つかってつまみ出されるなよ』 「わかってる!」 話しながら左之助は家を飛び出し、バイクに飛び乗った。 「待ってろ剣心!!」 左之助の絶叫が、イブの夜に響き渡った。 剣心は羞恥のあまり小さく身体を縮め身を震わせていた。先ほどから次々と与えられるショックに、心が追いつかない。 縁が、自分を好きだった。 初めて会った時から。 そして縁は今、自分を手に入れようとしている。 相変わらず頭は霞がかかったようだったが、先ほどよりは現実感が戻っている。 こんなのはおかしい。身体に力が入らないし、触れられただけで異常に反応してしまう。きっとさっき飲んだシャンパンに何かが入れられていたのだ。今少しものが考えられるようになったのは、多分汗をかいたせいで少し薬が抜けたのだろう。 どうしよう。どうすればいい? 剣心の心は激しく乱れた。縁が自分を好きだった。そんなこと、全然気づかなかった。 ほんとうに? ほんとうは縁の気持ちに気づいていて、利用していたんじゃないのか? 心の奥からの声に、剣心は愕然とする。 ひとりで巴の事を抱えるのが辛くて、縁が自分を好きなのを知って側にいてもらおうとそれを利用してたんじゃないのか。わかってて利用してるのを自覚したくなくて、気づかないようにしてただけじゃないのか? そうなのかもしれない。事実縁といるのは、楽だった。全てを知られているという安心感。彼の前ではとりつくろう何もなかった。 自分の上にのしかかり、また唇を重ねようと縁の端正な顔が近づいてくる。 剣心は大きな瞳から涙を溢れさせ、唇が触れ合う寸前、小さくつぶやいた。 「ごめん・・・縁・・・」 その瞬間、縁の動きがピタリと止まった。 「何・・・?」 「ごめん、縁・・・・。ごめん・・・」 剣心は身体を震わせながら、ぽろぽろと涙を流した。 先ほど悦楽のあまりこぼした涙とはまったく異質のものであることを、縁は瞬時に理解した。 「一体どういう意味だ」 一気に醒めた声で、身体を離す。 「許して・・・縁・・・俺、おまえを・・・。ごめん・・・」 「・・・おまえに謝られる覚えはない。黙れ」 怒りの混じった声が剣心を黙らせようとする。 その時だった。ひとつのノックが、緊張しきった空気を壊した。 『おいコラ!!いるんだろ縁!返事しろ!!剣心!剣心!!』 ドアの向こうから聞こえる声に、剣心が反応した。 「さ・・・の・・・?」 「ガキか・・・?どうやって・・・」 『けーんーしーんー!!ここ開けろー!縁!このヘンタイ!ヘンタイえーにーしー!バカえにしー!!』 左之助はあたり構わずドアを蹴りつけ、体当たりし、叫んだ。これではホテルの者に見つかるのも時間の問題だろう。 『だれかー!俺の彼女がやられちまう!ここを今すぐ開けさせろ!縁!このレイプ魔!』 面倒なことを口走り始めた左之助に、縁は舌打ちした。先ほどまでなら、ホテルの者を呼んで左之助をつまみ出させただろう。しかし縁はベッドから立ち上がると、服を身に着け始めた。 「縁・・・?」 「もういい。今日は勘弁してやる」 「・・・・」 「それと。今度俺に謝ったりしてみろ。閉じ込めていじめるくらいじゃ済まさないからな」 「あ・・・うん」 剣心は慌ててこくりと顎をひいた。 ドアの向こうでわめきたてている声に、縁は失笑をもらす。 「バカだと思ってたが、本当にとんでもない大バカだな、あいつは。」 恥ずかしそうに下を向く剣心に、出て行こうとした縁がふと振り返る。 「もしかしておまえ・・・、あいつが好きなのか」 みるみるうちに真っ赤に染まる剣心の顔を、縁は愕然として見つめた。 そして一瞬の後に苦笑を浮かべる。 「それじゃあ俺は、とんだ当て馬って訳か」 うつむく剣心に、縁は苦く笑いながら続けた。 「大した小悪魔ぶりだな、剣心。さすがだよ」 そしてもう一度剣心の側に歩み寄り、唇の端にくちづけると、そっとささやいた。 「やっぱり俺はおまえのこと、諦められそうにない」 「えに・・・」 慌てて名を呼ぶ剣心に構わず、縁は後ろを向いたまま手を振って、ベッドルームを出て行った。 「またな、剣心」 ドアに体当たりした瞬間、予想外の反動をまともに食らい、左之助は壁に飛ばされた。 「なっ・・・!?」 「うるせぇんだよ、ガキが。下品にわめくな。」 開いたドアの向こうで縁が傲岸に腕を組んでいた。 「てっめえ、縁!!ぶっ殺す!」 「だから騒ぐなと言ってるだろうが。躾の悪いクソガキが。」 跳ね起きてすぐさま縁に殴りかかろうとするが、縁は柳のように左之助の攻撃を受け流した。 「あの、お客さま、どうかなさいましたか?」 他の部屋から苦情がいったのだろう、ホテルマンがかけつけてきた。 「いや、なんでもない。騒いですまなかった。もう静かにするから」 「なんでもなくねーだろ!こいつが・・・」 なおもわめこうとする左之助を、縁が鶴の一声で黙らせる。 「中に剣心がいるんだぞ。剣心に迷惑をかける気か」 「ぐっ・・・汚ねーぞてめぇっ・・・」 縁は左之助を無視してホテルマンに話した。 「私はちょっと事情ができたので帰ります。でも部屋は明日まで予定通りお借りしますので」 「かしこまりました、雪代さま。ではお車をお回しいたします」 そのまま立ち去ろうとする縁の肩を、左之助が掴む。 「・・・どういうつもりだ」 「さっき言った通りだ。部屋は明日の昼まで好きにしろ。ほら、剣心が中で待ってるぞ」 左之助は腑に落ちない表情だったが、剣心が気になるのか振り返りつつも部屋の中へ入ろうとする。 「あ、そうそう。もう、結構あいつ満足しちゃってるからあんまり無理させるなよ」 扉が閉まる寸前にそう声をかけて、縁は笑い声をあげた。中からドアを蹴る音と、なにやら怒鳴り声が聞こえた。 縁は急速に下降していくエレベーターの壁にもたれ、額に手をあてた。 「まさかこうなるとはな・・・」 剣心が心のどこかで自分の気持ちに気づいていることくらい、計算の内だった。その罪悪感さえ、利用してやるつもりだったのだ。 だが、泣いて謝られるとは思ってもみなかった。 恐らく半年前の剣心なら、そうはしなかっただろう。その罪悪感ゆえに、尚更黙って縁の罠に落ちたはずだ。だが、今の剣心はそれを口に出して認めた。 それはつまり、縁が剣心にとって一番側にいて欲しい存在でなくなったことを意味していた。好きだと告げられて憐れまれる存在に、縁は落ちていたのだ。 「どうして俺はいつもこうタイミングが悪いんだ・・・?」 前の時は、既に姉がいた。そして今度はあのバカガキだ。 「まあいいさ。あのガキだってそう長くはない。何せ5年かけて俺が仕込んであるんだからな」 図らずもイブの夜にこのホテルのスイートをプレゼントしてしまったのは癪に障るが、おそらくは今にでもひと悶着起こっているはずだ。ベッドの上の剣心には、明らかな縁の痕跡が残っている。多分まだ一度もキス以上に進んでいない(進んでいれば俺が気づかないはずはない)ふたりには、十分な諍いの種だ。そして更に明日のチェックアウトの時にも。 人悪く笑いながら、縁はガラス張りのビルを出て行った。 「剣心!だいじょうぶ・・・か・・・」 部屋の豪華さや夜景など目もくれず、ベッドルームに走りこんできた左之助に、剣心は慌ててブランケットを身にまとった。 「あ・・左之・・」 「け、剣心っ・・・!!」 左之助は安堵のあまり目を潤ませながら、剣心に駆け寄る。 しかしブランケットを纏ったまま身を固くする剣心に、左之助は青ざめた。 「ももも、もしかして・・・俺、間にあわなかった・・・か・・・」 剣心はぐるぐると眩暈のする頭で必死に言い訳を考える。しかしどうしようのない状況だ。なにせシャツのボタンは引きちぎられてひとつもないし、下着はびちょびちょ、首筋には縁のつけたキスマークだ。しかしあったことを正直に話す訳にもいかず、大体話せばきっと左之助は縁を殺す。 剣心は薬のおかげでまだちゃんと働かない頭を必死で回し、とりあえず左之助に抱きついた。 「左之っ・・・よかった、きてくれて」 「だいじょうぶなのか?や、やられてねぇか?」 「うん。危なかったけど・・・、左之が来てくれたから。」 「あああ、危なかったって、危なかったって何された?」 「何か変な薬飲まされて・・・あんまり覚えてないけど、シャツ、ちぎられて・・・。あと、首に・・・。でも、それだけだから。それ以上は何もされてない」 剣心の言葉に左之助は怒りでぶるぶると手を震わせたが、最悪の事態は免れたことを知って安堵した。 「そ、そっか・・・。よくねぇけど・・・まあ、よかった」 左之助は改めて剣心を抱きしめ、そっとくちづけようとした。 「あ・・・左之、ごめん、ちょっと・・・シャワー、浴びてきてもいい?」 「え・・・?」 「他は何もされてないけど・・・首は。だから」 恥ずかしそうにうつむく剣心に、左之助はこくこくとうなずいた。 「そ、そうだよな。気持ち悪いよな・・・。うん、行ってこいよ」 ブランケットをまとったままバスルームに向かう剣心を見送ってひとりになると、左之助はやっと落ち着いて部屋を見渡した。 「うわっ、なんだここ!すげー広い!しかもこの夜景!」 そして今夜は剣心とここで過ごすことになるのに思い至る。 「もしかして・・・だよな・・・」 左之助は初めての時よりも俄然緊張した。 「うわー、どーすんべ。つか、また嫌がられるかも。こんなことがあったばっかだし・・・」 左之助が頭を抱えてぐるぐるしていると、バスローブ姿の剣心が髪を拭きながら戻ってきた。 「左之?どうした?」 「い、いや、なんもねーよ!」 「左之も風呂入るか?すっごいよ、ここの風呂」 「マジ?じゃあ入る」 「出たらご飯にしよう。シャンパンとフルコースと・・・、それからブッシュ・ド・ノエルがあるよ」 豪華なフランス料理のフルコースと剣心のクリスマスケーキに舌鼓を打ち、すっかりリラックスしたふたりはホテルを堪能したが、このままではいつもと変わらない!と奮起した左之助はソファでくったりとワインを飲んでいる剣心の側にいき、目の前に小さな漆黒の箱を差し出した。 「え・・・なに、これ・・・」 箱を手に取る。上に書かれた「VC&A」のロゴに、驚きを隠さない。 「まさか、左之」 「開けてみて。」 左之助に促されて、剣心はそっと箱を開いた。そこには、緻密なカットが施されたダイヤモンドがリングに埋め込まれたシンプルで上品なリングが輝いていた。 「左之、こんな高価なもの・・・」 「受け取ってくれるか?ダメなら、こっから身投げする」 「ばか・・・」 剣心は苦笑した。左之助がひどく緊張しているのが手にとるようにわかった。 「ありがとう・・・。ずっとバイト頑張ってたの、これの為だったんだな。」 「ほら、仕事で手使うから普段はできないだろ。だからこのチェーンを通して首から下げられるようにしてもらったんだ。この石とか、すげーよな。101もカットしてるんだってよ」 「左之・・・ありがとう。でも・・・」 「俺じゃ、役不足か」 「え・・・?」 「縁の野郎に言われたんだ。俺じゃ、おまえを支えてやれないってよ。俺じゃ、おまえのことなんもわかってなくて傷つけるばっかだって」 「左之・・・」 「でも、あの日おまえ言ってくれただろ。俺が夢じゃなくて、よかったって。俺今はなんもおまえのこと知らねぇけど、でも絶対守ってみせる。俺が話す事で昔思い出して辛くっても、俺がその上からいっぱい楽しい思い出作るから。何見ても辛くなくなるくらい、何見ても俺思い出して笑ってられるくらいにしてみせるから」 その言葉に、剣心は肩を震わせる。 「わ、笑うなよ・・・」 首をふる剣心の顔をのぞくと、剣心は笑っていたのではなく泣いていたのだった。 「け、剣心泣くなよっ。頼む泣き止んでくれ!」 左之助は慌てた。まさか泣かれるとは思ってもみなかったのだ。剣心の泣き顔は心臓に悪い。左之助の胸もギリギリ痛んで、息が止まりそうになる。 「ありがとう、左之・・・。でも俺はこの指輪に相応しくないんだ」 「相応しくないってどういう意味だ?ほら、剣心の手にすげー似合うぞ。それとも・・・ヴァンクリよりハリー・ウィンストンのがよかったか?ごめん、そっちはちょっと高すぎて・・・」 「そんな意味じゃない。今まで・・・、今まで怖くて言えなかった。ホントの事話したら、きっと左之は俺を軽蔑する。だから怖くて・・・」 「軽蔑?なんで。そんな訳ねぇだろ」 剣心は意を決し、左之助の目をまっすぐに見た。 「縁から・・・俺の昔のこと、聞いた?」 「・・・うん、まあ。・・・おまえ俺に知って欲しくなかったんだろ。ごめんな」 「ううん、いいんだ。じゃあ巴が・・・彼女が死んだわけも?」 「そんなの、そいつにしかわかんねぇよ。そうだろ」 「違うんだ。巴は・・・わかってた。俺は・・・巴を愛してなかったんだ」 「え・・・?」 「彼女は家庭に恵まれてなくて、だから人の愛情を試すようなところがあったんだ。彼女は色んな方法で俺を試した。それで俺も巴も気づいたんだよ。俺はちゃんと彼女を愛してなかった。多分誰もちゃんと愛したりなんてできないんだ。どんどん巴は自分を追い詰めていって・・・俺は彼女から逃げたかった。彼女が重荷で、面倒だったんだ!左之に知られたくなかったのは巴を亡くした事なんかじゃない。俺が巴から逃げたかった事なんだ・・・」 「剣心・・・」 「左之は・・・男が好きなわけじゃないだろう?女の子としか付き合った事ないって、男には全然興味ないって言ってたもんな。左之は、ゲイじゃないんだよ。俺が女の子みたいだから・・・勘違いしてるだけなんだ。でも触ったら、女じゃないってわかるだろう?そしたら左之はきっと俺がイヤになる。勘違いしてた事に気がついてしまう。でも俺は・・・左之が欲しくて・・・離したくなくて、だから・・・」 左之助はじっと剣心を見ている。剣心は耐え切れずに視線を落とした。 「ごめん、左之。俺は左之に好きになってもらえるような人間じゃないんだ。それに最初から気づいてたのに、左之を失うのが怖くて言えなかった。俺のエゴでおまえを縛って・・・左之の大切な時間を無駄にさせてしまった」 剣心は顔を覆った。自分を蔑む左之助を見るのは耐えられなかった。左之助は剣心にとって、長い暗闇の先に現れた太陽の光だった。屈託がなく、どこまでも真っ直ぐで素直に自分の心を見せる左之助にどれほど救われた事だろう。 きっと左之助はこのまま出て行く。そして剣心は全てを失うのだ。盲いた人が一日だけいたずらに光を与えられ、また奪われるように。 「バッカ野郎!」 突然剣心は怒鳴りつけられ、そのまま強く抱きしめられた。 「そんなにおめぇに好かれてたって知って、離す阿呆がどこにいるよ!誰もちゃんと愛せないだと?未だにそんなにそいつの事で苦しんで自分責めて、めちゃくちゃ愛してんじゃねーか!すっげー妬けるぜその巴って女!」 「さ、左之・・・」 「くっそー、めちゃくちゃ腹立つ!なんだよ俺ら、最初からちゃんと両思いだったんじゃねーか!俺は・・・おまえに信用されてねぇんじゃねえかと思って・・・でも無理矢理やっちまって嫌われたらやだし、すんごい我慢してたんだぞ!」 剣心を抱き上げたまま地団太を踏む左之助に、剣心は戸惑いを隠せない。しかしいくら左之助の目を覗いてみても自分への蔑みなど微塵もなく、それどころか更に愛情が増しているようだ。 「あーもう!どーしたらいいんだ!めっちゃくちゃかわいい!そんなに俺が好きだったなんて夢みてー!剣心!」 「は、はいっ」 「ちょっと俺ぶって。夢だったら困るから」 「え・・・」 「ほら、はやく」 「えっと・・・じゃあ」 剣心は手を振り上げ、平手で頬を張った。気持ちのいい破裂音が響く。 「いってー!!」 「あ、ごめん・・・」 「剣心結構腕力あんの忘れてた・・・いてー」 顔をしかめる左之助の頬を撫でてやる。 「よかった、夢じゃねぇや。」 「もう・・・バカだな、左之は」 「おめぇもな」 そのままふたりは顔を見合わせてくすくすと笑った。 「じゃあ、指輪、受け取ってくれるか?」 この手を、自分が取ってもいいのだろうか。剣心は不安になる。でもその誘惑に抗うことなどできはしないことは、自分自身が一番よくわかっていた。 「うん。ありがとう、左之。大事にするよ。明日、左之の指輪も探しに行こうな」 「うわ、マジ?もー俺今多分世界で一番幸せ、絶対。」 「大げさだな」 「でも、もっと幸せにできる方法あんだけど。知りたい?」 「なに?」 「そりゃもう・・・」 左之助は剣心を抱いたまま、ベッドルームへ運んでいく。 「あ、こら」 「いいじゃん。俺も幸せになれるけど、剣心だって幸せにするぜ?」 その言葉に剣心は微笑み、左之助の頭を抱いて唇を落としていく。 左之助のキスは少し強引で、でもやっぱりとても優しく、剣心を甘くとろけさせるのだった。 次の日、剣心の腰がすっかり抜けてしまってお姫さまだっこでホテル内を歩き回ったことも、そしてチェックアウト時金額に仰天し、結局左之助には払えなくて剣心がカードで払ったことも、次の日は左之助の指輪どころではなくなってしまったことも、そして実はその頃地上には左之助のピンチにイブの夜をひとりで過ごしていた自称左之助の子分や友人たちが集まっていて、翌日お姫さまだっこでホテルから出てきたところを拍手と歓声で迎えられることも、ベッドルームのふたりには知る由もないのだった。 END 2005.12.24UP |
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